LAZY【novel】04


ナルの機嫌がよろしくない。
と、先に気が付いたのはやはり、皆が称する所の越後屋:安原だった。


調査の為、いつもの面々が田舎に来て、早3日が経とうとしている。
緑豊かな山々に囲まれた美しい場所だ。
玄関から母屋へ入るまでは古きよき日本庭園が続き、木々にはピチチチと野鳥が羽を休めている。
渋谷からここまでの道中はなかなかに厳しかったが、その疲れもすっかり癒やされるというもの。
空も高く青くどこまでも晴れ渡り、これが単に旅行ならばと誰もが思わずには居られなかった。

本当にだだっぴろい土地のだだっぴろい家屋の一室を借りて、SPRはベースを設置した。
だが、有能なデイヴィス博士のこと。
わざわざ東京まで依頼に訪れた娘さんの笑顔にほだされ滞在を続けているものの、
今回ははずれじゃないかと昨日のうちに結論が下されていた。

「親父さんがご先祖の霊に取り付かれて家系図を毎日書き直す、だったっけ。」
澄んだ眼が至近距離からアイコンタクトをはかってくる。
古い家なので声が良く響くのだ。
朝の空気が清廉と呼気を冷やす中で、少し寒がりながら小声で内緒話を交わす二人。
「そうですねえ。単にボケてるだけじゃないかと思いますよねえ…。」
安原はその至近距離に動じず、眼鏡をキラリと光らせた。
「そもそもナルはなあーんでこの依頼を受ける気になったんだろう?」
そこからして謎だよね!むしろそっちの方が謎!と息巻く麻衣を尻目に越後屋は釘を刺す。
「今更詮無い事じゃないですか。それより、所長がみえたらもう少し離れてくださいね。」

「はい…?」
色素の薄い柔らかい髪がさらりと動き、首を傾げる仕種はとても可愛らしかった。が、
調査終了の話をつけにベースを離れているナルが今にも戻ってこようかという時分。
安原はけたたましい警鐘を聞いていた。


そして、こういう悪い予感ほど、よく当たるのである。

きしんだ障子戸を開けて、長身の男を従えた黒衣の美青年が敷居をまたぐ。
畳の上でちんまりと身を寄せ合っていた少年少女は、造作も無く彼の視界に入っただろう。

心霊現象でもなんでもなく、部屋の温度がぐんと下がった気がした。
あぁ、だから 言わんこっちゃない。
庭の鳥が羽ばたいていく。何かを本能的に感じたのかもしれない。
安原はナルの美しい唇が開かれる前にざっと麻衣から距離をとった。

柳眉がピクリと動いた気がしたが、見なかったことにする。
自覚しているかしていないかは知らないが、間違いなく機微に触れただろう。
安原は内心、所長は心が狭いと思っている。命が惜しいので口には決して出さないが。


玲瓏とした声が
「撤収する」
とただそれだけ言い置いて、車に向かう。
安原は助手席を死守しようと心に決めた。
運転するのはリン。後部座席にナル。その隣に麻衣を預けて置けばいいだろう。

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≫はずれクジの受難(09/02/10)
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