渋谷。ブルーグレーのドアの向こう。事務所の机。
ぐったりとうつぶせに上体を倒して、両腕の中に顔を沈める麻衣がいた。
「助けたつもりで、助けられた…んだよね。」
安原は外出している。所長室に篭っているナルは資料や本と熱愛中。
一人きりの空間に、ぽつりと高い声は零れ落ちた。
自ら巻き込まれに行って、かえって気遣ってもらっちゃったわけだ。
「あー。もー。なんで…」
言葉にならない沈んだ気持ちが、あの日からずっと、退院した今も続いている。
病室へお見舞いに、ナルは来てくれなかった。
というのも、本国に戻っていたからではあるが。
まだ、彼の麻衣に対する位置づけは、そんなものだ。
「これで好きになってもらおうなんて、自分で自分が好きじゃないのに、可能性すらあるわけ無いよね…。」
…なんか、自分で言ってて自分で凹んできた…
弛緩させた身体から吐き出すように溜息を逃がして、涙まで滲みそうな目を閉じる。
暗闇が自分を覆っているような錯覚。
「馬鹿が考えるだけ時間の無駄だ」
頭上から冷えた声がした。ナルだ。
いつの間に所長室から出てきたのか、ちっとも気付かなかった。
散々な醜態を見られていたのかと思うと全身が強張るが
それでも顔を上げないわけにはいかない。ゆっくりとぎこちなく身を起こす。と同時。
綺麗な指先の掌が降りてきて、麻衣の髪をくしゃりと混ぜた。
「そんな暇があるのなら、仕事の一つでも終わらせて欲しいものですね。谷山さん。」
意外なほど近距離からの嫌味に、反感を覚えるより先に心拍数がぐんと上がった。
「……ッ!」
がたん!と椅子を転がす勢いで立ち上がった時には、ふいっと彼は離れて行ってしまっていたけれども。
もしかして、ナルなりに励ましてくれたんだろうか…。
熱を持った頬を両手で押さえながら、麻衣は深く息を吸い込んだ。
お茶。と、一息つかせる間もなく求める厳命が下されて、くすりと微笑が洩れてしまうのを止められなかった。
あぁ。やっぱりいつか、ナルに振り向いてもらえたらいいな―――…
-------------------------------------------------------------------------
≫続・明らかにソレは夢でした(09/02/07)
--------------------------------------------------------------------------
back